或る醜い男の、醜い恋独白。

私は、その日、蛾になりました。光を求めてヨソヨソと近づいて、その熱で焼け殺されて千切れる蛾になりました。いや、正確を期すなら、死んだ瞬間の蛾に、その瞬間になりました。えぇ死にました。心の底からわきがあがるもの……愛だの恋だの、性欲、本能、相性、運命、なんとよぶべきもの、それも分からずに心の底からわきあがるのは、自然で当然で、自明の真理と完全に信じきっておりました。良い事だと死ぬその瞬間までよもや何も疑わずにおりました。でも死にました。気づくと同時に、死にました。



死にましたと書くことのなんと気持ちのよいことかしらん、死にましたし似ましたし似ましたしにましたし似ました氏にましたしにましたしにました。



私の勘違いでありました。蛾でも、虫でも、まぁなんでもあげればキリがなく、ただただ引っ張り寄せる魔性の光で、それを私だけのモノと勘違いしておりました。えぇ馬鹿でした。とんだ痴れ者でした。しかし、馬鹿といえども馬鹿なりには考えるわけで、馬鹿は馬鹿でも虫ではないので、恋が死ぬと、さて私とカノジョは一体なんなのだろう。これはどういう状況で説明できるものかしらんと、必死に頭をこねくりまわしたものです。



世間知らずの経験知らずでありましたし、まぁわかるよしもなく。確かめる術も知らず、発展させる、いわば口説くそれがしも心得ておらず、ただただ自問自答の堂々巡り、私とカノジョのコレはなんなのだろう。と繰り返すばかり。いえほんとのところ白状しますと、最初から答えは心に透けて見えておりました。ただのちょっと気の合う、それはカノジョの話には頻繁に登場していた、そういう大勢の中の1人が、この場で今の私だと。いつかは、私のコレも何かの拍子に使われ消費され消えていくのだと。そうして、期待という名の包装で綺麗に彩られていたベールははがれ、後には、最初からそうである飲み会という味気もなにもないその言葉が、すとんと目の前におっこちたのです。



いえ、まだ話は続きます。えぇもう少し。



自分の心の答えを確認するために、手でも繋ごうか
多少強引にでも関係をすすめて違う一人になるやもと、接吻でもせがんでみるか
理性に訴えて、アピールとやらでもするか。
それでも色々と、考えたわけでは在ります。死んだ恋が蘇るのか、本当に恋だったのか。コレに答えを出せるのか。ボール、小石、砂、いえもっと小さいなにか。結局のところ、臆病で相手を不快にさせたくない私は、その小さいなにかを精一杯投げてみることしかできませんでした。ふはは、どんなに虚飾してみても本当のところはただただこっけいなこうけいで。脈なしとこれまた、味気も何もない言葉が、すとんと目の前におっこちたのです。



ふははh。飲み会、脈なし、悪い人ではない友達。くだらないくだらない。いっそのことシンプルにいえば、ただこれだけのこと。これだけのこと。どこにでもるそれだけのこと。よくあること。だれしも経験する事。私には初めてだったこと……。そうそれだけでありました。そして、その1度の失敗で、心が壊れる私だったこと……。そうそれだけでありました。話はこれでしまいです。